青山は8位に沈み、三田が麻布を抜いた — 「街の格」と「いま買える価格」のズレを読む

直近1ヶ月の港区の売出しを独自集計すると、平均坪単価の首位は麻布でも赤坂でもなく三田で約2,000万円、青山は約1,156万円で8位だった。街の序列が変わったのか。答えは違う。この記事では順位の「カラクリ」を数字で解体し、この歪みを買い手がどう使えるかまで整理する。

この記事で分かること

「麻布・青山・赤坂が港区の頂点」という常識が、いまの売出しデータでは崩れて見える理由。それが街の価値の変化なのか、それとも数字の見え方の問題なのか。読み終えたときに、エリアの平均坪単価という数字をどう疑い、どのエリアに交渉の窓が開いているか、担当者に何を聞けばよいかが手元に残るように書いた。

今月の数字 — エリア別・平均坪単価(独自集計)

直近1ヶ月に掲載・更新のあった住戸を、当方でエリア別に集計した(オーナーチェンジ除く・平均値)。

順位エリア平均坪単価(独自集計)
1三田約2,004万円
2麻布台・虎ノ門約1,925万円
3六本木約1,789万円
4赤坂約1,599万円
5芝・浜松町約1,396万円
6麻布(南麻布・元麻布・西麻布・麻布十番)約1,309万円
7白金・白金台約1,195万円
8青山約1,156万円
9高輪約952万円
10芝浦・港南約811〜814万円

三田が1位。麻布ブランドはその6割強。青山は白金より下の8位。同じ港区の中で、首位と港南の間には約2.5倍の開きがある。

この表を見て「三田の時代が来た」「青山は終わった」と読むのは、しかし早い。

カラクリ① なぜ三田が1位なのか

三田で期間中に動いた住戸の中身を見ると、その67%が三田ガーデンヒルズの3棟(イースト・ウエスト・ノース・サウス)に集中していた。築年で見ると、2020年以降の築が約半分。築2000年以前はわずか5%しかない。

つまり三田の「平均」は、竣工直後の大型プロジェクトの売出しが大量に含まれた数字だ。三田という街全体が坪2,000万円になったのではなく、いま三田で店頭に並んでいる商品が、たまたま最も新しく最も高い一群だった、というのが実態に近い。

カラクリ② なぜ青山が8位なのか

青山は逆だ。期間中に動いた住戸のうち、2020年以降の築は1割に満たない。築2000年以前が3割近くを占め、売出しの中心はヴィンテージと呼ばれる年代の物件になっている。新築・築浅の売出しがほとんど無い街は、平均坪単価が構造的に低く出る。

同じ物差しで比べ直すと、景色が戻る

決定的な数字がある。築2000年以前の住戸同士でエリアを比べ直すと、三田は約677万円、青山は約676万円。ほぼ同額だ。

街の格は、何も変わっていない。変わったのは「いま売りに出ている物件の顔ぶれ」だけ。エリアの平均坪単価という数字は、その街の価値ではなく、その瞬間の売出し構成を映す鏡にすぎない。

これがこの記事の結論だ。エリア平均で街を選ぶと、構成の歪みをそのまま買うことになる。

買う人の実務 — 歪みは、使える

順位の歪みは、見抜いた人にとっては交渉の材料になる。

青山のように「新しい売出しが枯れて、平均が沈んで見える」エリアは、築古・ヴィンテージを検討する買い手にとって競合の少ない窓になっている。棟の名前で語られる相場が平均に引きずられて控えめな今は、条件の近い過去の売出しを根拠に指値を組み立てやすい。指値の目安は、これまでの観測どおり通り相場で2〜3%、売出しから時間がたち改定歴のある住戸なら3〜5%が起点になる。

逆に三田で検討している人は、ガーデンヒルズの価格を「三田の相場」として周辺の築古物件に当てはめないこと。同じ三田でも、築2000年以前の物差しは坪700万円弱の世界だ。

担当者にはこの3つを聞くとよい。この物件の坪単価は、同じエリアの同じ築年帯と比べてどの位置か。エリアの平均を持ち上げている(沈めている)大型売出しは何か。その影響を除くと、この物件の値付けは強気か控えめか。

売る人の実務 — 平均に怯えない、平均に甘えない

青山で売る人は「エリア平均が低い」ことを気にしなくていい。あなたの競合は青山の平均ではなく、同じ築年帯・同じ条件の数戸だけだ。むしろ新しい売出しが少ない今は、比較対象が乏しく、丁寧に根拠を組めば強気が通りやすい局面でもある。

三田で売る人は逆に、ガーデンヒルズの坪単価を自分の物件の基準にしないこと。買い手はあなたが思うより冷静に、築年帯ごとの物差しを使い分けている。

数字の扱いについて

エリア別の数字は、期間中に掲載・更新のあった住戸の当方独自集計(平均値)であり、各エリアの全在庫を網羅した数字ではない。売出し構成によって平均は動くため、この順位の上下を街の価値の騰落として読まないでほしい——むしろ「構成で平均は動く」ということ自体が、この記事で持ち帰ってほしい一点だ。

最後に、ひとつだけ問いを

構成が歪んで高く見える三田を買うか。窓が開いているうちの青山を買うか。私は、物差しを持って青山の築古を見に行く買い手が、この夏いちばん賢いと考えている。あなたはどちらを選ぶだろうか。

気になるエリアの「いまの売出し構成」は、当方で個別にお調べできます(/contact)。特定のマンション・エリアを継続して追いたい場合は、AIウォッチリストに登録しておくと、新規売出しや価格改定を監視してお知らせします。

(次号予告:値下げの主役は誰か。直近の大幅改定を築年別に分解すると、ある一群に集中していた。「新築転売の降伏」仮説を検証する。)

出典: レインズ在庫情報(2026年6月19日〜7月19日取得・港区)をもとに独自集計。エリア別の坪単価は期間中に掲載・更新のあった住戸の当方集計値であり、生データ・個別の売出価格は掲載していません。